AIを育てていたつもりが、自分も育っていた
AIを使っていて、「いや、そうじゃない」と思うことは今でもある。依頼した修正が残っているのに、完成したと言われる。こちらの条件を渡しているのに、一般論へ戻ってしまう。便利になった分だけ、そういうズレもよく見える。
以前なら、その場で言い直して終わっていたと思う。最近は少し違う。この違和感は、次の仕事でも起きるだろうか。起きるなら、何を判断基準として残せばいいのか。そんなふうに考えるようになった。

Section 01 — 「使えば育つ」の中身
私は、自分用に調整したAIの参照知識を、冗談で「ガンダムOS」と呼ぶことがある。仕事で覚えた判断、過去の失敗、提案してほしくない条件。そうしたものを、次の相談で使える形にまとめてきた。
ただ、AIが育つと言っても、会話するたびにモデル本体を私専用に再学習させているわけではない。変えているのは、AIに渡す材料と、その材料を使う手順だ。
同じ相談でも、目的や制約が抜けていれば、もっともらしい一般論が返ってくる。逆に、どこで失敗したか、何を優先するかが伝われば、確認すべき点から話を始めやすくなる。私が感じる「育った」のかなりの部分は、ここにある。
Section 02 — 完了と言われても、終わっていなかった
分かりやすいのは、成果物のチェックだ。最終確認を頼んだのに、要修正が残ったまま、持ち込み用のファイルができたと報告されたことがある。こちらとしては、完成品を渡してほしいから確認を頼んでいる。問題を列挙して、未修正のまま完成扱いにされると困る。
その場では「は?」となる。けれど、怒って終わっても次の依頼はよくならない。
そこで残したいのは、特定のAIが一度失敗したという愚痴ではない。「依頼事項が未実施・未確認なら、完了扱いにしない」「止まったなら、残件と理由を示す」という、別の案件でも使える基準だ。
これなら、資料でも、サイトでも、分析ツールでも使える。失敗した一件から、次の仕事の見方が一つ増える。
Section 03 — ログをためるだけでは足りない
もちろん、失敗した会話を全部保存すればいい、というものでもない。長いログには、その時だけの事情も、私の勢いで出た発言も、AIが勝手に補った説明も混ざっている。
私は、元の会話を証跡として残すことと、普段の判断に使うことを分けたい。何が起きたのか。その原因はどこまで確認できたのか。次に同じ条件が出たら、どうするのか。そこまで整理して、ようやく使う材料になる。
特に気をつけたいのは、AIから褒められた言葉を、そのまま自分の能力の証拠へ戻さないことだ。私が実際にしたことと、AIが私について推測したことは違う。都合のいい人物像ばかり残したら、次の対話もその人物像を補強する方向へ進んでしまう。

Section 04 — 変わったのは、依頼する側も同じだった
こうして運用していると、自分の頼み方も変わる。
最初に何を渡せば話が早いのか。どこはAIに考えてもらい、どこは固定するのか。できたものを、何で確認するのか。何度もつまずくうちに、見る場所が少しずつ分かってくる。
例えば、見た目の確認が必要なものは、コードを読んだだけでは判断できない。画面として表示して、文字の詰まりや余白、順番を見たい。計算結果なら、数字が並んでいることより、元データと定義が合っているかを確かめたい。
こうした見方は、プロンプトの言い回しだけの話ではない。何をもって仕事が終わったとするか、という自分の判断の練習でもある。
Section 05 — 成功も、そのまま万能ルールにはしない
うまくいった方法も残している。作る役と確認する役を分けることや、同じファイルの状態を見ながら修正を回すことは、私の実験では役立ってきた。
ただ、一度うまくいったから何にでも適用する、とはしたくない。小さな文章修正に、大掛かりな監査の仕組みが必要とは限らない。仕組みの維持に時間を取られて、肝心の実務が止まったら本末転倒だ。
残すなら、どんな時に役立ったかも一緒に残す。次に使って合わなければ、直す。判断基準は増やすことより、使える状態にしておくことのほうが難しい。
Section 06 — 昨日の失敗を、今日の出発点にする
私はAIを触ること自体が面白い。仕組みを考え、動かし、直す。その試行錯誤がゲームのように感じられることもある。
でも、毎回ゼロから同じ失敗をしていたら、楽しくても積み上がりは小さい。昨日のつまずきを今日の確認項目にできれば、少なくとも同じ場所で止まる理由を一つ減らせる。
この蓄積を、私は複利に近い感覚で捉えている。もちろん、使った時間に比例して必ず成果が伸びるという意味ではない。間違った基準を残せば、むしろ悪い方向へ揃ってしまう。だから結果を見て、基準そのものも点検する。

Section 07 — 育てていたのは、使い方の関係だった
AIの性能が上がったことも大きい。ただ、それだけでは説明しきれない変化が、自分の側にもある。以前より条件を分けられる。出力の怪しいところに気づける。失敗した時に、何を直すか考えられる。
AIを育てていたつもりで、私は自分の依頼と評価の仕方も育てていたのだと思う。
次の仕事が少し楽になるのは、前の仕事の経験を持って始められるからだ。だから「そうじゃない」と感じた瞬間も、単なる無駄にはしたくない。その違和感を、次は何を見るかという言葉に変えておく。今の私には、それが一番実用的な学び方になっている。